「食事も入浴も面倒」と自分の世話を放棄してしまう状態に陥ってしまう人は、一定数います。いわゆる「セルフネグレクト」と呼ばれ、高齢者の問題と思われがちですが、将来への不安を抱える20〜30代でも急増しています。
放置すると健康の悪化やごみ屋敷化、孤立化に陥ることがあります。孤独死の危険まで高まるため、兆候が見られた場合は早急に手を打たなければなりません。
本記事では、若者がセルフネグレクトに陥る要因をわかりやすく解説します。チェックリストに加えて予防法や解決策も紹介しているため、ぜひ最後までご覧ください。
目次
セルフネグレクトとは?若者にも起こりうる自己放任状態

セルフネグレクトとは、自分自身の世話や管理を放棄してしまう状態のことで、日本語では「自己放任」や「自己放棄」とも呼ばれます。食事や入浴・清掃など、本来は健康的に生活するために必要な基本的な行為を自らおこなわなくなります。
結果として生活環境や健康状態が悪化し、健康や安全を損ないかねません。
ニュースなどでごみ屋敷の問題として取り上げられることもあり、そうしたケースもセルフネグレクトの典型例です。
かつてセルフネグレクトは、認知症による判断力低下などが原因の高齢者に特有な問題だと考えられていました。しかし近年では、老若男女問わず誰にでも起こりうると認識されています。
実際に非正規雇用の増加や将来不安、社会的孤立などさまざまなストレス要因から、若い世代にもセルフネグレクトに陥る人が増えていると指摘されています。
決して高齢者だけの問題ではなく、20代・30代の若者でも起こりうるのです。
セルフネグレクトのチェックリスト

セルフネグレクトは徐々に進行することも多いため、早めに兆候に気付くことが重要です。厚生労働省では「セルフネグレクトに該当する状態」を公表しており、以下のようなサインが見られる場合はセルフネグレクトの可能性があると指摘しています。

引用:図表2-2-30セルフ・ネグレクトに該当する状態|厚生労働省
これらの項目に複数当てはまる場合、セルフネグレクト傾向に陥っている可能性があります。兆候を放置すれば、状態は深刻化する一方です。
身近な人に上記の兆候が見られる場合は、早めに対策を講じたり気付いたら声をかけたりして、支援につなげるようにしましょう。
若者がセルフネグレクトになる社会的要因2つ

現代の社会環境には、若者をセルフネグレクトに陥らせやすくする要因があります。
- 核家族化と単身生活の増加
- インターネット・SNSの普及
ここでは、代表的な社会的要因を2つ紹介します。
核家族化と単身生活の増加
近年、家庭環境は核家族化が進み、若者が一人暮らしをするケースが増えています。かつては大家族で暮らす中で自然とコミュニケーション能力が身につき、悩みを相談できる相手も身近にいました。
しかし、現代では家族の形が少し変化し、日常的に相談できる人を得にくくなっています。結果として人との関係が希薄になり、社会から孤立してセルフネグレクトに陥る若者が増えています。
一人暮らしでは生活の乱れを指摘してくれる家族もおらず、自己管理が疎かになっている人も少なくありません。
人間関係に苦手意識を持ち、人付き合い自体を避けてしまう若者も一定数います。こうした家族や周囲とのつながりの希薄さが、若者のセルフネグレクトを招く社会的要因のひとつといえます。
インターネット・SNSの普及
インターネットやSNSの普及も、若者のセルフネグレクトを助長する社会要因のひとつです。
コミュニケーションの場が対面からオンライン中心になることで、人と直接会話する機会が減り、対人関係能力を育みにくくなっています。顔の見えないインターネットの世界に没頭しすぎると、現実の人付き合いに苦手意識を抱いて引きこもりがちになる人も少なくありません。
また、SNS上で他人の華やかな生活ぶりを見る機会が増えることで、自分と比較して自己評価が下がり、やる気や自信を失ってしまうこともあります。
その結果、現実世界での活動が億劫になり、生活全般を放棄してセルフネグレクト状態に陥りやすくなります。
若者がセルフネグレクトになる経済的要因2つ

若年層の厳しい経済状況も、セルフネグレクトの背景にある重要な要因です。
- 若年層の貧困
- 不安定な雇用・就労環境
ここでは、経済的な側面から若者がセルフネグレクトに陥る要因を2つ挙げます。
若年層の貧困
日本では近年、若年層の貧困が深刻化しつつあり、独立して暮らしていても生活が苦しいケースが増えています。十分な収入がないと食事の栄養バランスが崩れたり、病気になっても医療費を捻出できず病院に行けなかったり、といった状況に陥りがちです。
その結果、体調が衰えて身の回りのことに手が回らなくなり、セルフネグレクトを招いてしまいます。
不安定な雇用・就労環境
安定した職に就けず、非正規雇用や長時間労働といった不安定な就労環境に置かれている若者も珍しくありません。厚生労働省の調査では、20代労働者の約13.5%が非正規雇用という結果が出ています。
【参考】厚生労働省
収入面での不安や将来への展望が持てない状態が続くと、生活リズムが乱れやすくなり、心身の余裕も失われがちです。
深夜までのシフト勤務や過酷な労働で疲労が蓄積して、食事や睡眠、部屋の片付けなどを後回しにしてしまう原因にもなります。そのような状態が続けば、身の回りのことを放棄してセルフネグレクトに陥るリスクが高まるでしょう。
若者がセルフネグレクトになる心理的要因2つ

社会的・経済的要因に加え、心理的な側面もセルフネグレクトの発生に深く関係しています。若者特有の心理的要因として、以下の2点が指摘できます。
- 精神疾患の増加
- 援助を求めにくい文化
ひとつずつ見ていきましょう。
精神疾患の増加
ストレス社会の現代において、若者の間でうつ病や適応障害など精神疾患を抱える人は増加傾向にあります。
精神疾患を抱えると「自分は無価値だ」「生きる意味がない」といった極端な自己否定感に陥りやすく、日常生活への意欲や判断力が著しく低下します。
実際、うつ状態になると何をするにも億劫に感じてしまい、着替えや掃除など日常の世話さえままならなくなるケースもあるくらいです。その結果、身の回りのことを放棄し、セルフネグレクト状態に陥りやすくなります。
援助を求めにくい文化
日本には周囲に迷惑をかけまいとして、自分だけで問題を抱え込もうとする風潮が根強く残っています。若者の中にもセルフネグレクト状態に陥っても「恥ずかしい」「甘えていると思われたくない」と考え、援助を求めることに抵抗を持つ人が多いです。
弱みを見せたくないというプライドや遠慮の気持ちが働き、結果的に誰にも相談できないまま状況が悪化してしまうケースもあります。
特に家族や社会から孤立している若年層ほど周囲から発見されにくく、手遅れになる危険性が高まります。
若者のセルフネグレクトを放置するリスク3つ

セルフネグレクト状態をこのまま放置してしまうと、本人にも周囲にもさまざまな深刻なリスクが生じます。若者であっても例外ではありません。ここでは、セルフネグレクトを放置することで起こりうる代表的なリスクを3つ確認しておきましょう。
- 健康状態の悪化
- 居住環境の悪化
- 孤独死の危険
ひとつずつ解説します。
健康状態の悪化
セルフネグレクトに陥ると、本人の健康状態が大きく悪化するリスクがあります。例えば、食事をきちんと摂らず栄養失調になったり、持病やケガがあっても病院に行かなかったりすることが挙げられます。
長期間、入浴や歯磨きを怠れば皮膚疾患や歯周病を招き、全身の健康に悪影響を及ぼしかねません。体調が悪化しても本人に自覚がなく、気付いた時には深刻な病気に進行しているケースも多いです。
健康を損ねても適切な対処をしない状態が続けば、最悪の場合は命に関わる事態に至ることもあります。
居住環境の悪化
掃除や片付けをしなくなると、住まい環境は驚くほど急速に荒れていきます。セルフネグレクト状態の若者の部屋は、散らかったままごみ屋敷のようになってしまうケースが多いです。
生ごみが蓄積すれば異臭が漂い、ゴキブリやハエなどの害虫が発生して衛生面で深刻な問題を引き起こします。ホコリやカビだらけの部屋で長時間過ごすことで、健康被害が出ることもあります。
さらに、悪臭や害虫は近隣にも影響を与え、周囲との人間関係に支障が出る場合もあるでしょう。自宅が不衛生な状態になると人を家に呼ぶこともできず、いっそう孤立が深まるという悪循環に陥りかねません。
住まいがごみ屋敷化してしまうと、賃貸物件であれば退去を余儀なくされたり、大家から高額な原状回復費用を請求されたりするケースもあります。
孤独死の危険
社会から孤立した若者が誰にも気付かれずに命を落とす孤独死の危険も、否定できません。
特に一人暮らしの場合、定期的に様子を見てくれる家族や知人がいないため、孤独死のリスクは一層高まります。
家族や地域とのつながりが薄いと体調悪化や緊急時にも誰にも発見されず、そのまま死亡に至るまで放置されてしまう恐れがあります。
若者がセルフネグレクトにならないための予防策3つ

セルフネグレクトは何より予防が肝心です。深刻化する前に手を打つことで、本人も周囲も大きなリスクを回避できます。若者がセルフネグレクトに陥らないための主な予防策は、以下の3つです。
- セルフネグレクトの兆候に気付く
- 定期的な交流とリアルなコミュニケーションをとる
- 副収入で収入安定を図る
ひとつずつ見ていきましょう。
セルフネグレクトの兆候に気付く
まずは、セルフネグレクトの兆候を早めにキャッチすることが大切です。セルフネグレクトのチェックリストで挙げたような、生活習慣の乱れや衛生面の低下などのサインが自分自身や身近な人に見られないか、普段から注意しましょう。
兆候を放置すれば事態は深刻化していく一方です。周囲の家族や友人も、いつもと様子が違うと感じたら早めに声をかけてあげるよう心がけてください。
定期的な交流とリアルなコミュニケーションをとる
セルフネグレクトを防ぐには、人とのつながりを絶やさないことが重要です。
定期的に家族や友人と直接会って話をしたり、地域のサークルやイベント活動に積極的に参加したりしてみましょう。オンライン上のつながりだけでなく、顔を合わせて交流する機会を持つことで孤立感が和らぎ、心身の状態を健全に保ちやすくなります。
誰かと関わることで生活リズムも整いやすくなり、自分の状況を客観視して省みるきっかけにもなるはずです。困ったときに気軽に相談できる人間関係を築いておくことも、セルフネグレクトの予防につながります。
副収入で収入安定を図る
経済的な問題が原因と考えられる場合は、生活に余裕を持たせるため、可能であれば副業やアルバイトで収入源を増やすことも検討してみましょう。
空いた時間にできる在宅ワークやネットビジネスに挑戦するのも、ひとつの方法です。収入が安定すれば食事や医療といった自己管理に必要な出費を確保しやすくなり、心にも少しゆとりが生まれます。
また、何かに打ち込めるようになると生活にハリが出て、気力が湧いてくることもあります。どうしても収入が改善しない場合は、生活保護や自治体の支援制度の利用も視野に入れてください。経済的な不安を減らすことが、セルフネグレクト予防の大きな一歩になります
若者のセルフネグレクトを解消する方法3つ

もしすでにセルフネグレクトの状態に陥ってしまっている場合でも、そこから抜け出す方法はあります。若者のセルフネグレクトを解消するための具体的な方法を3つ解説します。
- 生活リズムを整える
- 家族や友人・相談窓口に悩みを打ち明ける
- 病院で治療を受ける
ひとりで抱え込まず、できることから少しずつ実践してみましょう。
生活リズムを整える
セルフネグレクトから抜け出す第一歩として、乱れてしまった生活リズムを立て直すことから始めてください。なるべく毎日決まった時間に起床・就寝し、1日3食の食事を摂るなど規則正しい生活習慣を意識してみましょう。
睡眠不足や不規則な生活は、心身の不調を招く原因になります。
習慣づけのために「朝起きたら太陽の光を浴びる」「夜は決まった時間に入浴する」「短時間でも構わないので部屋の掃除や散歩をする」といった、簡単なことから始めてみてください。
最初は難しく感じても、生活が安定してくると気力や意欲も徐々に回復してくるでしょう。
家族や友人・相談窓口に悩みを打ち明ける
辛い状況にあるときこそ、ひとりで抱え込まず周囲に悩みを打ち明けることが大切です。勇気がいるかもしれませんが、信頼できる家族や友人に現状を正直に話し、手助けを求めてみましょう。
「迷惑をかけたくない」「情けない姿を見せたくない」という気持ちもあるとは思いますが、今の自分の状態や気持ちを伝えることはとても重要です。
身近に相談できる相手がいない場合は、市区町村の相談窓口やNPO団体など、専門の支援機関を頼ることも検討してください。誰かに話すだけでも心が軽くなり、具体的なサポートにつながる可能性があります。
病院で治療を受ける
心身の健康を取り戻すために、専門家の力を借りるのは有効な手段です。
セルフネグレクトの背景に、うつ病などの精神疾患が隠れていることも少なくありません。自力で立ち直るのが難しいと感じる場合は、精神科や心療内科などの病院で適切な治療を受けることも大切です。
医師の診断を仰ぎ、必要に応じて薬物療法やカウンセリングを受ければ、症状の改善が期待できます。治療を受けることは決して恥ずかしいことではありません。
実際にセルフネグレクトで診療を受ける人は珍しくないため、病院では親身になって対応してくれるはずです。
若者のセルフネグレクトについてまとめ

セルフネグレクトは高齢者だけでなく、若者にも起こりうる重大な問題です。
しかし、早めに兆候に気付き適切な対策を講じれば、防ぐことも改善することも十分に可能です。もし「自分や身近な人がセルフネグレクトかもしれない」と感じたらひとりで悩まず、周囲に相談したり専門機関に助けを求めたりすることが大切になります。
また、セルフネグレクトによって居住環境が手に負えない状態に陥った場合は無理をせず、プロの手を借りるのもひとつの方法です。部屋の片付けや清掃などは専門業者に依頼すれば、すぐに対応してもらえます。
タイヨーが提供しているサービス「遺品整理みらいへ」では、不用品回収やお部屋の清掃などのサービスを提供しているため、困ったときはお気軽にご相談ください。電話やメールはもちろん、LINEでの簡単見積もりを受付けております。
焦らずに自分のペースで改善に取り組み、第三者のサポートを上手に活用しながら、少しずつでも生活環境と心身の健康を取り戻していきましょう。